一夫多妻なのだから、夫が「もう一人結婚したい」と決めれば成立する。そんなイメージを持っている人も、いるかもしれない。
しかし、少なくとも現代インドネシアの国家制度は、そんなに単純ではない。
01 — 「妻4人までOK」の国で、なぜ第一夫人の許可がいるのか。
今回の主人公を、仮にKとする。
40代。日本在住。既婚。日本に妻がいる。そしてインドネシアに、結婚を望む女性がいる。
彼女は、Kが既婚者だと知っている。問題は、そこではない。
Kが調査を進めていくと、インドネシアで正式な第2婚を行う場合、単に宗教上の婚姻儀式を行えば終わるわけではないことが分かってくる。一夫多妻を希望するイスラム教徒の夫については、宗教裁判所の許可が問題になるとされる。
そこで裁判所が確認する重要項目の、一つ。
現在の妻は、同意しているのか。
Kは考えた。
「彼女は知っている。」
しかし、それは第2夫人になる女性の話だった。制度が聞いているのは——
第1夫人は、知っているのか。
インドネシアの1974年婚姻法(婚姻に関する1974年法律第1号)は、一夫一婦を原則としつつ、複数の妻を持とうとする夫に裁判所の許可を求める枠組みを持つとされ、その審査で考慮される事項の一つとして現在の妻の同意が挙げられると一般に説明される。条文の正確な要件・宗教裁判所の運用実務については、一次資料および現地の有資格専門家への確認を進めている。
02 — 問題は「彼女が賛成しているか」ではない。
新しく結婚する女性が、「私は第2夫人でも構いません」と言っている。
それだけでは、足りない。
制度が保護しようとしている相手の一人は、すでに婚姻関係にある現在の妻だからだ。
つまり第2婚を考える夫にとって、新しい恋人との話し合いより、現在の妻との話し合いの方が、法的には先に巨大な壁として現れることがある。
この瞬間、「一夫多妻」という言葉の意味が変わる。
妻が増える自由。ではない。
現在の家族に対する責任を維持したまま、もう一つの婚姻を追加できるのか。
——という制度になる。
03 — 第一夫人が「絶対イヤ」と言ったら終了なのか。
ここからが、面白い。
制度には、第一夫人の同意について一定の例外が存在するとされる。例えば——
- 同意を求めること自体が不可能
- 妻が法的な意思表示をできない
- 長期間、消息がない
- その他、裁判官が評価すべき特別な事情
ここだけ読むと、Kの顔が少し明るくなる。
「例外、あるじゃん。」
しかし、そう簡単でもない。
例外事由として挙げた項目は、一般的な解説に基づく編集部の整理であり、条文上の正確な範囲・要件は確認中。「どの事情がどこまで認められるか」は裁判所の判断事項であり、要専門家確認。
04 — 「反対されたから例外」は、たぶん違う。
第一夫人に、「第2夫人を持ちたい」と話した。
妻は、「嫌です。」と言った。
だから、「同意を取れないので例外規定を使います。」
——という単純な話では、ない。
法律上想定される典型的な例外は、単なる拒否ではなく、そもそも同意を求めることが困難・不可能な事情を中心にしている。
つまり、
「妻に言ったら怒られそうだから、秘密にしたい」は、例外制度の中心ケースとは、かなり違う。
05 — 妻がOKと言っても、まだ終わらない。
仮に第一夫人が、「分かった。第2夫人との結婚を認める。」と言ったとする。
それでも、自動的に第2婚が成立するわけではない。
さらに——
- 一夫多妻を認める理由
- 複数の家庭を扶養できる経済力
- 妻たちと子どもを公平に扱えるか
- そして、裁判所の判断
などが問題になるとされる。
同意は、入口にすぎない。
06 — 裁判所が出てくる。
一夫多妻を調べていくと、「妻4人まで」という非常にシンプルな言葉から、急に裁判所が出てくる。
全部が、絡む。
07 — そして日本人には、さらに別の壁がある。
もしKが日本国籍なら、問題はインドネシア側だけでは終わらない。
日本では、配偶者がいる者の重婚は禁止されている。
相手国に一夫多妻制度が存在することと、日本人本人が第2婚の婚姻能力を持つかは、別問題になる。
日本の民法第732条は「配偶者のある者は、重ねて婚姻をすることができない」と定める(重婚の禁止)。刑法第184条は重婚を処罰の対象とする。また「法の適用に関する通則法」第24条は、婚姻の成立につき各当事者の本国法によると定めている。相手国の制度がどうであれ、日本人当事者には日本法上の婚姻要件が問われることになる。個別の事案への適用は要専門家確認。
08 — Kは、ここで初めて理解した。
最初に考えていたのは、「インドネシアなら妻4人までOKらしい。」だった。
しかし調査を進めるうちに、問いは変わった。
第1夫人は、同意するのか。
裁判所は、許可するのか。
日本国籍の自分には、そもそも第2婚の能力があるのか。
そして、第2婚が現地で成立したとして、日本では何として扱われるのか。
妻4人。たった三文字の言葉。
しかし実際には、国籍と国籍の間に、宗教と国家法の間に、第一夫人と第二夫人の間に、何枚もの書類と、何人もの専門家と、一つの裁判所が立っていた。
第一夫人の同意は、
本当に必要なのか。
原則として、重要な条件の一つ。
ただし、法律上の例外は存在するとされる。
しかし、「妻に反対された」「妻には秘密にしている」というだけで、簡単に例外になると考えるのは危険だ。
そして日本人の場合、問題は第一夫人の同意だけでは終わらない。
日本法上、第2婚そのものが可能なのか。
Kは、制度上の論点を説明するために編集部が構成した架空の合成人物であり、特定の実在人物に対する法律判断ではない。結論は国籍・宗教・居住地・既存の婚姻・相手方の国籍等により変わる。本稿は一般的な調査記事であり、個別案件への法律意見ではない。